新薬を多くの患者さんに
届けるために

-グローバル化への挑戦-

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谷本 光庸

ONO PHARMA USA Executive Vice President,
U.S. Head of Clinical Development

2000年小野薬品工業に入社し、臨床試験の計画づくりや評価(モニタリング)などを担当。英国現地法人勤務や、循環器領域、中枢神経領域及び消化器がん領域の医薬品開発責任者を経て、現在は米国現地法人「ONO PHARMA USA」で、様々な医薬品の開発を統括している。

世界の患者さんに新薬を届ける――製薬会社の使命を果たすべく、小野薬品は一歩を踏み出した。舞台は米国。知名度が極めて低く、ビジネスのルールも異なるこの地で、自らの手で臨床試験を行って新薬を生み出し、自ら販売するという初めての、しかも高いハードルへの取り組みだ。開発を指揮する谷本光庸は「チームで困難を乗り越え、今より多くの患者さんやご家族に貢献する日を実現したい」と意気込む。

焦燥感

「このままでは、発売が遅れるかもしれない」
2023年初め、米国での新薬開発を推進するリーダーとして、小野薬品の米国拠点ONO PHARMA USA (OPUS)に赴任した谷本は、焦りを募らせていた。悪性度の高い脳腫瘍の一種、中枢神経系原発悪性リンパ腫。米国では治療法がない病の薬として、ある新薬の開発を進めるなか、重要なステップである「治験」で暗雲が立ち込めていたからだ。

医薬品は、薬の候補となる物質を、患者さんらに投与する治験を経て、世に出ていく。治験に参加する患者さんは、医療機関を通して募集するが、あらかじめ設定した人数が集まらなければ、薬の効き目や安全性のデータを十分に評価できず、薬を世に出せなくなる。
谷本のチームは、参加者を計画通り、集められずにいたのだ。

「これまで日本でやってきたように、医師から治験協力の快諾も得て、体制も整えた。それなのになぜ…」。入社以来20年超、大小様々な治験に取り組んできた谷本には、狐につままれたような感覚だった。
時間は無情にも過ぎていく。谷本たちは広大な米国に散らばる治験協力先の医療機関を訪問し、医師や病院スタッフに直接会って、原因を探ることにした。

熱い思いを伝える

10件近くを訪ね、医師たちと話すうちに、谷本はあることに気づいた。
開発中のこの新薬を通じて、米国の患者さんやそのご家族に貢献したいという強い思い、革新的な創薬に常に全力投球している小野薬品の情熱……今回の創薬にかける熱意が、コロナ禍で当たり前になったオンライン会議を通しては十分に医師に伝わっておらず、参加者の募集が滞っていたのだ。一方で、小野薬品のチームの間でも連帯感が欠けていたことにも気づいた。
直接の訪問は功を奏した。谷本たちが丁寧なコミュニケーションに努めたことで、治験に参加する患者さんは一気に増え、開発は軌道に乗り始めたのだ。谷本は振り返る。「自らの力で初めて米国で薬を出す、そして多くの患者さんにお届けする。今の当社にしかない強い思いをぶつけたことで、医師の先生方のねじが巻かれた。解答は現場に必ずあることを改めて学んだ」。
新薬の発売は2026年に照準を合わせた。残りわずかの時間を、チームは引き続き奔走する。

米国に本格進出する意味

なぜ小野薬品は米国に本格進出するのか。社長の滝野十一は「世界中の患者さんに薬を直接お届けするという、製薬会社なら描く夢を実現する第一歩だ」と語る。
小野薬品は長らく、国内を中心に治験や自社での販売を行ってきた。ここ10年で韓国や台湾にも進出し、開発を進めてきたが、例えば、欧米では主力製品の販売を提携先の製薬会社の力を借り、世界の患者さんに届けている。
多くの患者さんが待つ米国で、治験も、販売も自らできるようになれば、革新的な医薬品を世界に届け続ける「グローバルスペシャリティファーマ」の実現に近づく。米国展開が、製薬企業としてその後の成長を占う試金石となる。

「まずは、着手した治験を成功させること。その後は、世界の巨大製薬会社のように、様々な病気に対する治験を、様々な国で同時に当たり前のように進められる小野薬品になりたい。少しでも早く世界中の患者さんに貢献できるように」。谷本はまっすぐ前を見据える。

私たちの仕事の大前提には、患者さんやご家族の笑顔がある。
そのために、挑戦を重ね、ブレークスルーを生み続けていく。
小野薬品全社員の決意だ。