小野薬品工業株式会社

統合報告書 2026
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社外取締役座談会

グローバル
スペシャリティ
ファーマへの
進化を支える

社外取締役が語る、成長戦略のリアリティ

  • 社外取締役
    奥野 明子
    甲南大学経営学部教授
  • 社外取締役
    野村 雅男
    岩谷産業株式会社顧問
    京阪神ビルディング株式会社
    社外取締役
  • 社外取締役
    長榮 周作
    パナソニック
    ホールディングス株式会社
    特別顧問
    株式会社日本経済新聞社
    社外監査役

小野薬品の現在地と社外取締役の役割

小野薬品の現状をどのように評価されているか、また社外取締役としてどのような視点で監督・評価を行われておられるかについてお聞かせください。
野村
社外取締役の役割は年々重要性を増しています。その中で最も重要なのは、会社から独立した立場で経営を客観的に評価・監督することだと考えています。特に近年は「稼ぐ力」の向上が強く求められており、中長期的に企業価値を高め続けられているかという視点を重視しています。ステークホルダーの利益を守りつつ、持続的成長につながる経営がなされているかを見極めることが、私たちの使命です。
奥野
当社においてはここ数年株価が低迷していましたが、2025年度は自社化合物のフェーズ2試験の成功やデサイフェラ社製品の順調な売上、統合プロセス(PMI)の進展など、当社の成長戦略が理想的なかたちで進捗し、一定の成果が見え始め、市場からの評価も徐々に変わりつつあると感じています。製薬ビジネスは短期で成果が出るものではなく、中長期で評価することが不可欠です。私は人的資本の観点から評価することが多いのですが、例えば女性活躍などの取り組みでは数値目標が先行し、現場の納得感とのギャップもあると聞いています。中長期の戦略を見据えた人事施策が理解され、制度が定着することで、組織を質的に変化させることが課題です。
長榮
私たちは医薬品業界の専門家ではありませんが、社外取締役の立場として、今回のデサイフェラ社の買収を機に組織や仕組み、人財のグローバル化が実質的に進んでいるのかを見ていく必要があります。
奥野
医薬品業界は専門性が高く、研究開発や個別の投資判断をすべて詳細に評価することはとても難しいです。私たちは個々の案件の是非というよりも、それらが中長期の戦略に沿っているか、投資家の期待と整合しているかといった観点で監督すべきと考えています。
野村
私自身は、事業として持続的に継続していけるかどうかという観点で見ています。市場規模や競争環境、収益化までの期間といった事業計画の妥当性を重視しています。無理があればどこかに不自然さが出てきます。その点を見極めながら議論に参加しています。
長榮
私は経営上の大きな判断が求められる場面では、「勝ち筋があるか」という視点が重要だと思っています。例えば、需要や競争状況、収益性といった基本的な前提がしっかりしているかを確認しています。計画は必ずしもその通りに進むとは限りませんが、筋の通った戦略になっているか客観的に評価することは必要で、それが社外取締役の役割だと思います。
奥野
社外取締役は有事の際の対応も重要な役割の一つです。想定外の事象や不祥事への対応といった有事に直面したときこそ、社外取締役は特に意識して会社の対応を見ていくべきですし、場合によっては積極的に関与すべきだと認識しています。

成長戦略の進捗

グローバルスペシャリティファーマへの転換に向けた成長戦略の進捗と、その成果や課題をどのように評価されていますか。
長榮
4つの成長戦略のうち「グローバル事業の拡大と加速」という点において、デサイフェラ社の買収は大きな転換点となりました。欧米ではデサイフェラ社が中心となって事業を遂行していく方針ですが、グローバル事業が軌道に乗るか否かはPMIにかかっており、ここをどう進めていくかが非常に重要なのです。現地の人財とも対話しながら、実態をより深く理解していく必要があると考えています。
野村
デサイフェラ社が持つ研究機能には大きな強みがあり、創薬研究におけるシナジーも期待できます。また、小野薬品の開発パイプラインにおいても、立て続けに成果が出ており、全体として活性化してきている印象があります。これはこれまでの「パイプラインの強化」の取り組みの成果であると評価しています。
製薬企業にとってパイプラインは成長の源泉であり、この流れをいかに継続していくかが重要です。個別案件だけでなく、それを生み出し続ける体制や風土も含めて見ていかなければなりません。
奥野
2025年度は複数の自社化合物のPOC確立や新たなグローバル製品の導入など、具体的な成果が見えてきた年でした。オプジーボの特許切れを見据えた次の成長への道筋として期待しています。
長榮
医薬品業界は各社が得意分野を持ちながら競争を展開しています。まず、どの領域で勝ちにいくのかを見極めなければなりません。一方で、開発には時間がかかるため、スピードの向上はさらに重要です。AIの活用なども含めて研究開発の効率を高めながら、有望な案件を確実に上市につなげるとともに、次の候補を継続的に生み出していく必要があります。その意味でも、パイプラインの厚みをどう確保していくかが課題になります。

資本市場との対話

資本市場は小野薬品の企業価値をどのように評価しているでしょうか。またその期待にどのように応えていくべきかお聞かせください。
長榮
資本市場が見ているのは、足元の業績だけではなく将来性です。株価は業績と連動しているだけでなく、中期的な成長の実現性やストーリーへの期待が反映されているものです。
ポイントは、投資家との対話を通じて得られたフィードバックを、取締役会でしっかり共有し、議論につなげていくことです。当社では、IRやSRで得られた指摘や評価が取締役会に速やかにフィードバックされており、外部の視点を踏まえながら議論ができるようになっています。
奥野
私たちはROEやPBRといった資本効率や企業価値に係る指標についても、常に意識して見ています。しかし、足元の数値だけでなく、中長期的な成長戦略に沿って取り組みを進めることでどのように推移するのか、戦略を修正する必要があるかを見極め、その内容を対外的に分かりやすく伝えることで、市場から適正な評価を得ていかなければなりません。デサイフェラ社の買収やグローバル展開の進展が、中長期の成長戦略の中でどのような位置づけにあるのか、投資家の理解と期待につなげていくIR・SRが求められます。
野村
東証から資本コストや株価を意識した経営について開示が求められていますが、われわれ社外取締役もこのような要請が出された背景を踏まえて議論していかなければなりません。当社の場合、過去には高いROEやPBRを実現していましたが、オプジーボの特許切れに対する嫌気やデサイフェラ社買収といった大型投資の影響などもあって指標が低下しました。しかし、それが将来の成長につながることを収益の見通しとともに開示していくことが、企業価値を向上させていくうえで欠かせません。ROEやPBR、資本コストを意識しながら、社外取締役として企業価値向上に資する提言を行っていきたいと考えています。
奥野
デサイフェラ社の買収は、ここまでの成果を見る限り、その判断は間違っていなかったと思います。製薬ビジネスの特性上、継続的な研究開発投資は不可欠であり、今後はグローバルで開発を進めることになるため、短期的には業績拡大が難しい局面を迎えることもありますが、中長期の成長に向けた必要な投資として、しっかりと取り組むべきです。
野村
投資アロケーションについては、株主還元、成長投資、人財への投資のバランスが問われます。累進配当を打ち出した点は明確なメッセージになっていると思いますし、将来に向けた投資も積極的に行っていく姿勢も示しています。リスクを取らなければ成長はありませんので、足元を固めながらも、バランスの取れたかたちでキャッシュを配分していくことが重要です。
長榮
資本効率の指標については、ROEやROICのような考え方もありますが、製薬企業の特性を踏まえると一つの指標だけで判断するのは難しい面もあります。投資と株主還元は本来トレードオフの関係にありますが、当社の場合は積極的な投資を行いながら、株主還元も実施しておりバランスは取れています。製薬は大きな投資を前提とした事業ですから、その特性を踏まえた判断が必要です。

ガバナンスの実効性

取締役会の実効性やガバナンスの高度化について、どのような課題があるとお考えですか。
野村
取締役会の議論の質は、この数年で大きく変化しました。かつては業務執行の細かな案件が付議されることもありましたが、現在は執行側に委ねるべき事項との切り分けを行い、重要案件や中長期の経営課題に議論を集中するかたちへと移行しています。その結果、中期経営計画の進捗やサイバーセキュリティ対策といった近年特に重要性が高まっているテーマに多くの時間が割かれています。意思決定のスピードと監督機能を重視したモニタリング型の運営に近づいていると思います。
奥野
取締役会の実効性評価は、アンケートに加え、取締役会事務局による個別インタビューを通じて率直な意見を吸い上げ、具体的な改善につなげています。実効性評価の総括を受けて、運営方法や議題設定等の見直しが毎年行われ、議論の充実が図られています。こうしたプロセスが機能し、継続されていることが、取締役会の実効性向上につながっています。
長榮
取締役会では、社内外の役員の間で自由に意見を交わし、必要に応じて議論を深めることが求められています。議論の質を向上させるためには、社外取締役自身も知識を深めていくことが必要です。社外取締役は単に報告を受けるだけではなく、異なる視点から問いを立て、新たな気づきを与える役割があると考えます。
奥野
サクセッションプランは、企業の持続的な成長を左右するテーマで、継続的に議論しています。どのような人財が、次の経営を担うべきかを明確にしたうえで、計画的に育成していくことが求められます。また、人財の多様性という点では、女性の執行役員が誕生するなど前進が見られます。さらに、次につながる人財を継続的に育成し、裾野を広げていくことが必要です。
長榮
人財育成の課題は、社内の視点だけでは見えにくいことも多いので、社外取締役が客観的な立場から関与していく必要があります。特に、サクセッションは少し先の話であっても、今の段階から準備が必要です。現在、執行役員層を含めた次世代の経営を担う人財について社外取締役が十分に把握できていないという課題があります。当社では、取締役会だけでなく、個別テーマのレクチャー等でディスカッションの機会がありますので、候補者人財の人となりを把握していくことが必要です。特定の個人の成長に期待や依存をするのではなく、幅広い候補者を見ながら、厚みのあるサクセッション体制を構築していかなければなりません。
奥野
経営陣だけではなく、私たち社外取締役自身のサクセッションも含めて考えていくべきテーマですね。取締役会全体として持続的に機能する体制を維持する視点が重要です。
野村
私は役員報酬案検討会議の議長を務めていますが、メンバーは私たち社外取締役のみで構成されています。その役割は、単に報酬水準を決めるだけではなく、経営陣の意識や行動をどの方向に導くか、価値観を示していくことにあります。短期的な業績だけでなく、中長期的な企業価値向上につながる取り組みや成果をどのように評価に組み込むべきかという点について議論を重ねています。
奥野
当社では業績連動型の株式報酬を中期経営計画と連動させており、どの成果を評価し、どの指標に結び付けるかという設計を重視しています。これは単なる結果の反映ではなく、経営へのメッセージでもあり、評価を通じて意思決定や組織の方向性に影響を与えると考えています。そのため、戦略との整合性を常に意識して報酬の設計を見ていく必要があります。
長榮
特に投資家の立場からは、どのような成果がどのように評価されているのかが明確であることが求められますので、その点も意識しながら議論していかなければなりません。

次の10年への監督

小野薬品が持続的に成長していくうえでの、社外取締役としての役割をお聞かせください。
野村
製薬業界には、パテントクリフや創薬難易度の上昇といった課題があります。当社においても、オプジーボ以降の持続的な成長には、有望なパイプラインの継続的な創出・獲得とグローバル展開の推進が不可欠です。中長期的な視点で成長基盤を強化していくことが今後の重要課題です。
奥野
グローバル化の進展に伴い、人財や組織のあり方も大きく変わります。その中で、多様な人財が力を発揮できる環境を整えながら、持続的に価値を創出できる体制を構築していくことが重要です。これまで築いてきた強みを活かしつつ、新たな領域への展開をどう進めていくかが問われていると認識しています。是非当社の成長を長い目で見ていただきたいと思います。
長榮
医薬品は社会にとって不可欠なものであり、企業としての成長と社会的な役割の両立が求められます。私も国民の一人として、当社には本当に必要とされる医薬品を継続的に提供し続ける企業であって欲しいと切実に願っています。そのためにも、強靭な開発パイプラインを維持し、確実に製品を世の中に届けていくことを期待しています。また、当社が日本のみならず世界の人々の新たな未来を切り拓くという役割を果たしていけるよう、社外取締役として成長を支えていきたいと考えています。